サッカーができないサッカー選手の本音

サッカーができないサッカー選手の本音

「サッカーの試合より重要なことなんて、この世に山ほどある。」

自分は今、この事実を嫌なほど痛感している。

 

 

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世界中で猛威を振るうコロナウイルス。

日本でも学校が臨時休校。

マスクは全国各地で売り切れ状態。

Jリーグをはじめ、スポーツ界も延期や無観客試合の処置が取られてる。

しかし、その対策とは反比例して、発症者数は日々増えていく一方。

見通しの付かない今の状況に不安ばかりが募り、批判の的は政治家のお偉いさん達に向けられている。

 

 

さて。

ここで自分の現状を少しご紹介させてもらう。

2020年1月にモンゴルのFCウランバートルと契約を更新し、今季もモンゴルリーグでプレーすることになっている。

肋骨を骨折していたため1月から日本で治療し、 チーム練習が始まる予定だった3月上旬に合わせ、コンディションを整えていた。

そして、3月上旬の渡航に合わせてモンゴル行きのチケットも用意。

肋骨の方はもう完治に近い状態で、あとは出発を迎えるのみだった。

しかし、前述したとおりコロナウイルスの猛威が世界中を支配していく。

まだ日本では、どこか他人事のように中国・武漢市の状況を報道していたような時期、モンゴルでは迅速に政府が対策を行っていた。

中国からの入国制限、国境の封鎖、教育機関の閉鎖、公的活動の禁止など、どの国よりも早く対策を打ち出していた。

そして、事態が深刻になるにつれて、更なる対策を次々と打ち出した。

 

 

●2020年3月1日現在

・中国~モンゴル間の航空機、鉄道の旅客輸送の完全停止(3月30まで)

・日本~モンゴル間を繋ぐMIAT航空は3月28日まで停止

・過去14日以内に日本、韓国、中国、イタリアに渡航歴のある外国人はモンゴルへの入国禁止。(当面の間とされている)

という状況。

 

 

この結果、自分は現状モンゴルに行けない。

3月下旬を目安に渡航することをチーム側とは話しているが、もう少し様子をみないと何とも言えない状況だ。

もし、このまま事態が収まらずモンゴルへ行けなかったら…

と一番最悪のケースを考えると、”不安”が自分の心を支配していく。

 

 

「日本の政府がもっと早く対策をしていれば、発症者がこんなに増えずに済んで、予定通りモンゴルに行く事ができたんじゃないか。安倍さん、マジでふざけんな。」

と、最初は正直思った。

チームと契約してプレーできる(働ける)権利があるにも関わらず、コロナウイルスの発症者が多いが為にモンゴル側から入国を許されない状況になってしまい、現地に行くことができずにプレーすること(働くこと)ができないから。

ただ、目の前の現状から目を逸らし、愚痴を嘆いていたところで、何も始まらないのは今までの海外生活で嫌なほど学んできたこと。

自らアクションを起こさなければ、何も始まらない。

しかし、今回の件は自分がどんなに必死に叫んだところで、モンゴルへの入国許可が早くなる訳ではない。

なので、自分ができることは限られている。

逆に言うと、自分ができる事に対して、自然と視線が向けられる。

 

 

現状、自分ができることは【準備し続ける】ことである。

 

 

いつになるかははっきり分からない現状だけど、ピッチの上に立った時、自分の力を100%発揮し、チームを勝利に導けるように準備し続けること。

これにフォーカスして、行動するのみ。

コロナイウイルスが発症する前から、何ひとつ変わらない。

いつになるか分からない渡航時期や開幕時期、今後の生活、自分自身の健康…

様々な外的要因によって、いまの自分の心はぶれそうになっている。

しかし、こんな状況でもチームが優勝することを常に描いて、自分は行動できるのか。

きっと、フットボールの神様から試されている。

 

 

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でも。

「サッカーの試合より重要なことなんて、この世に山ほどある。」

とも、思っている。

 

 

自分のネーム入りユニフォームを着た人が応援してくれるスタジアムで、

提供してもらったお気に入りのスパイクを履いて、

最高にカッコいいユニフォームを着て、

アンセムの音楽に合わせて入場して、

チームメートと肩を組んで集合写真を撮り、

円陣を組んで、

試合を迎える。

 

 

こんな妄想ができるのも、命があるからできること。

 

 

コロナウイルスは【死】というモノをちらつかせているから、人々は恐怖に怯えている。

もし自分が死を迎えてしまうと、前述した妄想もできないし、サッカーもできないし、この文章を書く事もできない。

なので、まずはコロナウイルスの猛威が収まらないとサッカーができない事も、冷静に考えれば理解できる。

 

 

正直、サッカーなんてこの世の中に無くても、生きていける。

 

水や食べ物があること、住める家があることの方が、サッカーができることより、生きる上ではとてつもなく重要度高い。

このように、生きる上での優先順位を付けていくと、サッカーをすることなんて最下位に程近いだろう。

なので、まずはコロナウイルスの猛威が早く収まってくれることを、自分は強く望む。

 

 

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でも。

自分はサッカーが好きだ。

これもまた、変えられない事実。

試合に勝利した瞬間やゴールを決めた瞬間の、心の奥底からアドレナリンが溢れ出てくる快感を、もう一度味わいたい。

 

自分はそれを、モンゴルに居る仲間達と共に味わいたい。

過去3シーズン、苦楽を共にした仲間達と一緒にプレーする権利を、とてもありがたいことに自分は今年も持っている。

モンゴルでの4シーズン目を無事に迎えて、ピッチの上で人生を掛けて、真剣勝負ができる日が来ることを、本気で願っている。

その生活が、今の自分にとっては一番の生き甲斐だから。

 

ただ単に生きるのであれば、毎日ご飯を食べて、安心できる家で寝ることができれば大丈夫なんだけど…

自分の場合は、【サッカー】という生き甲斐を欲してる。

サッカーが無い生活より、サッカーがある生活の方が、生きていることを実感できるから。

 

早くコロナウイルスの猛威が収まって、モンゴルでサッカーができることを、自分は心の底から望んでいます。

 

大津一貴

About The Author

大津 一貴
夢を諦めて一般企業へ就職するも、22歳でがんを患い生き方を改める 。その後、脱サラして海外でプロサッカー選手に。モンゴル1部・FCウランバートル所属。1989年10月25日生まれ、北海道出身。

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